どちらが良い、悪いという話ではなく、根本にある「思考の前提」や「大切にしている価値観」がまったく別のベクトルを向いていると感じる。
私は幼少期、周囲の大人たちが大体「自営業」という環境で育った。
彼らはすべての決定権を自分に持ち、休みの調整から仕事の進め方まで、自分の責任で自由に決めていた。私はそんな大人たちの背中を当たり前のように見て育った。
それから大人になり、会社に勤め始めてから、言われもない違和感にずっと悩まされてきた。
どんなに頑張っても組織になじめず、上層部と衝突してしまう。
他の社員がうまく組織のなかで役割を果たしているのを見るたび、自分の不器用さに頭を抱えた。
しかし、10年ほど会社員をして気がついたことがある。
会社員として長年働ける人には、会社員としての確かな「適性」があるということだ。
自分のこだわりよりも全体の調和を優先できたり、与えられた枠組みのなかで責任を全うできたりする。
それは私には真似できない、組織を支える大きな強さだ。
以前、会社の上司とランチをした際、「今の環境を守ることが最優先だから、不満があってもこの場所で役割を果たしたい」という趣旨の話を聞いたことがある。
その言葉を聞いて、ハッとした。
私は自分の能力に確証があるわけでもないのに、「自分がどう感じるか」という感情が先行して動き出してしまう。
一方で、会社員として長く活躍できる人は、「自分」よりも「環境や関係性」を維持することに価値を見出し、外部からのプレッシャーに耐える強さを持っている。
つまり、どちらが優れているかではなく、行動の基準が「自分軸」か「環境軸」かという違いなのだと思う。
この前提が違うため、将来の話や日常のちょっとしたトラブルについて話しても、どうしても会話の噛み合いにくさを感じることがある。
自営業の人が「変化や不確定要素」を日常として受け止めるのに対し、会社員の人は「安定や予見可能性」を前提として生きている。
見ている景色が違うのだから、捉え方が異なるのは当然なのだ。
「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、結局のところ、自分が心地よく話せる人や周囲に集まる人は、自分と同じような思考回路を持つ人になっていく。
どちらの生き方にもそれぞれの苦労があり、それぞれの強みがある。
口に出すことも、空気に出すこともないけれど、そこには確実に、それぞれの価値観に基づいた「生きる世界の違い」が存在しているのだと思う。

