私は、絵を描くことが大好きだ。
幼少期からずっと、ひたすらに絵を描いて過ごしていた。
大人になる頃にはそれなりに上達もしていて、絵の教室にも通い、毎朝会社に行く前の時間すら惜しんで練習を続けていた。
純粋に絵を楽しんでいた頃、私の周囲には同じように「趣味」として心の底から絵を楽しんでいる友人たちに囲まれていた。
しかし、私が他者との「比較」を意識し始めた時、その視線は次第にプロへと向かうようになる。
私は積極的にプロが集まる場に出向き、交流を持ち、気がつけば自分の周囲をイラストレーターや漫画家といった本職の人たちで固めるようになった。
「プロに囲まれる環境に身を置けば、自分も同じようにプロの舞台に立てるはずだ」
当時は本気でそう信じていた。
だが今思えば、それは自分で自分のメンタルをへし折りにいくような、危険で残酷な行為だったと、わかるんだけど。
その中には自分と同い年の人もいて、きっと私と同じように毎日寝る間を惜しんで絵を描き続けてきた人々。
それなのに、彼らと私のスキルには、悲しいほど残酷な差がついていた。
どんなに練習量を増やしても、どれだけ時間をかけても絶対に埋められない「才能の壁」がそこにあると、悟った瞬間。
自分の中でポキリと何かが折れる音がした。
最初はその音を見ないふりをして、変わらずコンテストに応募したり、作品をSNSに載せたりしていたけど、
心の中で鳴った「折れた音」の衝撃は致命傷だったようで、私はどんどん絵を描くことが苦しくなっていった。
それまでの私の生きがいが、消え去っていくのを感じた。
「もう、絵は楽しくない」
そう自覚したのを最後に、イラストの教本も、高価な画材も、機材も、すべてが箪笥の肥やしになり、私は完全に絵を描くことを辞めた。
それから、5年が経った。
今でもふと「絵を描いて表現したい」という衝動に駆られる瞬間がある。
けれど、筆を執る事はない。
今更描いたところで、画力は絶望的に落ちているだろう。
そんな自分の下手な絵を見るのが嫌だ。
それに、もしまた「絵を描く舞台」に戻ってしまえば、あの息の詰まるような「他者との比較」の日々が始まってしまう。
何よりも、かつてのように純粋に「楽しく描けない」という現実を、再び突きつけられるのがたまらなく怖いのだ。

