婚活仲間の中に、どうしても忘れられない女性がいる。
彼女は当時30代。
長く苦戦していた相談所での活動を諦めかけた頃、最後にお見合いした男性と意気投合し、成婚退会をしていった。
同棲が決まった時に、彼女からこんな話を聞いた。
「彼ね、『実は部屋が汚くて…』って言うから行ってみたら、ゴミ屋敷だったの」
足の踏み場もなく、浴槽まで物が詰まれ、シャワーができるスペースしかないような空間。
それでも彼女は「仕方ないなぁ」と笑いながら、二人でその部屋を片付けたらしい。
その後、彼女は彼を自宅に招き手料理を振る舞った。
しかし彼は、彼女が作った料理の味見せず、出された瞬間に醤油を追加で回しかけたそうだ。
私は絶句したけれど、彼女はこう言った。
「でも、彼は私のことを好いてくれているし。良いところもあるから」
その時の私の心には、ある言葉が浮かんでいた。
「それは強がりじゃないの? そんな相手、今からでもやめたほうがいい」
でも、私はそれを口にしなかった。
その場の空気は祝福ムード一色だったし、彼女自身も、誰かに止めてほしいとは思っていないように見えた。
何より、私自身に「その場の空気を壊してまで、彼女の人生に踏み込む覚悟」がなかった。
面倒を避け、笑顔で「よかったね」と送り出してしまったのだ。
正直、それがずっと心残りになっている。
結局彼女は遠くへ引っ越していき、その後どうなったのかは分からない。
振り返って考えてみると、当時の彼女の背中には「これだけお金と時間をかけた婚活を、絶対に『失敗』にしたくない」という必死さが張り付いていたように思う。
「早く婚活を卒業したい」その一心で、自分自身の違和感に蓋をして突っ走ってしまったのではないか。
その気持ちは、後に私自身も同じような状況になったからこそ、痛いほどよく分かる。
「ここまで築いた関係を、また最初からにしたくない。」
だけど、今の私はこの事も知っている。
今の「小さな違和感」を犠牲にすれば、将来の自分がもっと大きな痛手を負うことになる。
誰だって活動を「成功」で終わらせたい。
でも、違和感のある関係を「失敗」と認め引き返すことができる勇気。
それは、自分で無理やり作り上げた「成功」よりも、ずっと尊くて素晴らしいものだ。
だから私は、もう届かないけれど、あの日の彼女へ伝えたかったことをここに残すことにする。
もし、自分の心に嘘をついていると感じるなら。
一度立ち止まって、その違和感を客観的に見つめ直してみてほしい。
自分ひとりでは怖いなら、信頼できる誰かに話して、その「直感」が正しいのかどうか聞いてみてほしい。
「ここまで来たから」という理由だけで、自分の直感を押し殺さないで。
貴女の幸せは、違和感の先にはないのだから。


